糖尿病になるまでの過程は、一般的に以下のような3つのステップで説明されることが多いです。ただし、これらのステップは連続的かつ個人差が大きいため、必ずしも全員が同じように進行するわけではありません。
糖尿病になるまでの3ステップ
ステップ1：インスリン抵抗性の始まり（隠れた問題）
この段階では、まだ血糖値は正常範囲内にあることが多いですが、体内で大きな変化が起こり始めています。
* 何が起こるか：
* インスリン抵抗性の発生: 肝臓や筋肉、脂肪細胞がインスリン（血糖値を下げるホルモン）に対して鈍感になります。これは、インスリンが細胞のブドウ糖取り込みを促す働きが、効率的に行われなくなる状態です。
* 原因: 遺伝的要因に加え、不健康な食生活（高カロリー、高糖質、高脂肪）、運動不足、肥満（特に内臓脂肪型肥満）などが主な原因となります。
* 身体の反応： 膵臓のβ細胞（インスリンを分泌する細胞）は、インスリン抵抗性を補うために、より多くのインスリンを分泌しようとします。このため、この段階ではかえって血液中のインスリン濃度が高くなる「高インスリン血症」が見られることがあります。
* 症状： ほとんどの場合、自覚症状はありません。しかし、人によっては食後の眠気、疲労感、体重増加などが現れることがあります。
ステップ2：耐糖能異常（境界型糖尿病）
この段階では、インスリン抵抗性がさらに進行し、膵臓のインスリン分泌も追いつかなくなり、食後や空腹時の血糖値が正常範囲を超えて上昇し始めます。しかし、まだ糖尿病と診断される基準には達していません。
* 何が起こるか：
* 血糖値の上昇: 食後に高血糖になったり、空腹時血糖値も正常上限に近づいたり、あるいはそれを超えるようになります。
* 膵臓の疲弊: 長期間にわたる過剰なインスリン分泌により、膵臓のβ細胞が疲弊し始め、インスリンを十分に分泌できなくなってきます。
* 診断基準:
* 空腹時血糖値: 110mg/dL以上 125mg/dL以下
* 75gOGTT（経口ブドウ糖負荷試験）2時間値: 140mg/dL以上 199mg/dL以下
* HbA1c: 6.0%以上 6.4%以下
（日本糖尿病学会の診断基準に基づく。いずれか一つでも当てはまると耐糖能異常、あるいは境界型糖尿病と診断される。）
* 症状： この段階でも、はっきりとした自覚症状がないことが多いです。健康診断などで血糖値の異常を指摘されて初めて気づくケースがほとんどです。
ステップ3：糖尿病の発症
この最終段階では、インスリンの分泌が著しく低下するか、インスリン抵抗性が非常に強くなることで、常に高血糖の状態が続きます。
* 何が起こるか：
* 持続的な高血糖: 血糖値が糖尿病の診断基準を満たすようになります。
* 膵臓β細胞の機能不全: β細胞がさらに疲弊し、インスリン分泌能力が大幅に低下します。
* 合併症のリスク: 高血糖状態が長く続くことで、全身の血管や神経がダメージを受け始め、糖尿病の三大合併症（神経障害、網膜症、腎症）をはじめとする様々な合併症（心筋梗塞、脳卒中、足病変など）のリスクが高まります。
* 診断基準:
* 空腹時血糖値: 126mg/dL以上
* 75gOGTT（経口ブドウ糖負荷試験）2時間値: 200mg/dL以上
* 随時血糖値: 200mg/dL以上
* HbA1c: 6.5%以上
（上記のいずれかの項目が複数回認められる場合、または1回の検査で上記の基準を満たし、かつ典型的な糖尿病症状や確実な糖尿病網膜症がある場合などに糖尿病と診断される。）
* 症状： この段階になると、のどの渇き、多尿、体重減少、だるさ、疲れやすさなどの典型的な糖尿病症状が現れることがあります。しかし、症状がはっきりとしないまま進行するケースも少なくありません。
重要なこと:
* これらのステップは可逆的であり、特にステップ1やステップ2の段階で適切な生活習慣の改善（食事療法、運動療法）を行うことで、糖尿病の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることが可能です。
* 定期的な健康診断を受け、血糖値の異常を早期に発見することが、糖尿病予防・早期治療には不可欠です。
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